水平線のはなし
あの水平線の向こうには、一体どんな世界が広がっているんだろう。
どんな場所があって、どんな人たちがいるんだろう。
小さい頃、おばあちゃんとお母さんとお姉ちゃん、そして私で
三浦半島にある某灯台を目指して、広い森のような公園の中を歩いていました。
灯台のある見晴しの丘へは、結構な登り坂でした。
坂を登りきった時にふいに目に飛び込んできた水平線を、私は一生忘れない、と思います。
それくらい、水平線は圧倒的な存在として私の前に現れたのです。
実際、あの光景を今でも頭の中にくっきりと思い浮かべることができます。
その水平線は、それまで見たことのある水平線とは違って、ゆるやかな弧を描いて、
地球の果ての境界線として私の目の前に存在していました。
それを見た瞬間、私は海の深さ、世界の広さ丸さ、そして地球を流れる時の長さを、実際に目の前にあるものとして実感し、肌で感じたのです。
それは、感動というよりは、圧倒的すぎて背筋がぞくっとするような感覚でした。
見晴しの丘には、戦没者の碑があったこともまた、私をぞくっとさせた一因でした。
そう、私は海の下で眠る数知れぬ戦没者の魂のことや、海難者のこと、そしてもっとはるか昔から海の中で生まれては消えていった生命のことを、ほとんど一瞬にして想像してしてしまったのです。
そしてそれらの魂やら何やらを全て飲み込んだまま、広く深い海はそこに存在している。圧倒的な青さで。
きっと海の中は孤独と苦しみと悲しみに満ちているんだろうな、と感じました。
そしてその深い悲しみや苦しみや孤独を内側に抱え込んでいるにも関わらず、表面はどこまでも穏やかで、僅かな波を立てているのみ。。。
私たちの世界には、こんな風に普段隠れていて見えないけれどとても大事なことが沢山あるに違いない。
そして、私たちの世界のずっと向こうには水平線がゆるやかな弧を描いていて、どこか遠い世界へと繋がっている。
ふとそんなことまで考えていました。
そんなこんなで、水平線というのは、人を哲学的にさせる力があるのだと私は今でも思っています。
水平線は私たちの柔らかな心を癒し、希望を与えてくれる存在でもあると思います。
いつも自分の心の中に、あの小さい頃に見た水平線があることで、
何かに行き詰まったときもなんとか乗り切っていくことができるんだと
思っています。
あなたの中には、水平線がありますか。